今日は僕がこの世界にハマるきっかけとなった男の子との印象的なエピソードについて書いてみようと思います。
僕は特に子どもが好きだったわけでもなく、高い志をもってこの世界に入ったわけではありません。この男の子との出会いが僕の今に大きく関わっています。
まだ自閉症のお子さんとかかわりはじめてまもない頃、大学一年生の時、親の会の活動にボランティアとして参加した時の話です。
プールサイドでの出来事
その日はプールでの活動の日。
僕は自閉症(当時の呼び方で書いています)の男の子の担当になりました。
その子が普段から利用している慣れたプールで、プールが大好きな男の子です。
その日彼は、プールサイドをずっと歩き回っていました。
行ったり来たり同じところをうろうろと歩き回るだけで、いつまで経ってもプールに入ろうとはしませんでした。
当時の僕はと言えば、知識も経験もなく、この子たちとどうやってかかわっていいかもわからず、目の前の彼に対して何をしていいのかもわからず、少し離れたところで彼の後ろをついて歩くことしかできませんでした。
彼の表情はどことなく不安気で、泣きそうに眉を寄せながら、時折奇声をあげています。
けっこうな時間歩き回っていたのではないかと思います。
ふと彼が腰を下ろしてプールサイドに座り込みました。
僕も彼の斜め後ろ、ちょうど手が届くくらいの位置にちょこんと座り、彼と同じ方向を向いて、体育座りをしながら、二人でぼーっとしていました。
しばらくすると突然彼が隣に座っている僕の脛(すね)をさすり出したのです。
僕は彼にされるがまま、座っていました。
すると今度は脛をさすりながら僕の顔を覗き込んできたのです。
僕はただただ彼の方を見ながら、しばらく見つめあっていました。
夏の日差しの暖かいポカポカしたプールサイドでの出来事。
どれくらいの時間座っていのかわかりません。
そのまま終了の時間を迎えましたが、どうやって別れたのかすら覚えていません。
「あー今日も何もできなかったなぁ」と思って先輩の車に乗って帰ったのを覚えています。
お母さんからの電話
その一週間後その子のお母さんから連絡がありました。
その時、もしかしたら「『もっと自分から積極的にかかわってほしい』とご意見されるのかな」と覚悟したのですが、伝えられた内容はまったく想像していなかったものだったのです。
その「プールサイドでの出来事があった翌日から学校に行くようになった」と言うのです。
どうやらその二週間くらい前から学校に行けなくなり、活動の日もものすごく不安定だったそうなのです。
彼と僕が何もしないでぼーっと過ごしている様子を見たお母さんは
「ああ言う時間が必要だったんですね。いろいろなことを求めすぎていたのかもしれません。きっとホッとしたんだと思います」
とおっしゃってくれました。
その言葉を聞いて「何もできないと思っていた自分にもできることがあるんだ」と、僕自身がホッとしたのをはっきりと覚えています。
今思えば「何もできなかった」わけではなく、「見守る」ことや「待つ」ことはできていたし、「その場で起きる出来事をジャッジせず『受け入れる』」ということができていたのだと思います。
その後、このご家族とは家族ぐるみのお付き合いをさせていただきました。
そして「もっとご家族のために何かできないか」と思って大学院への進学を決め、この世界にどっぷりと浸っていくことになりました。
そのきっかけをくれたのがこのご家族であり、この男の子でした。
ちょこっとつぶやき
何かをするだけが支援ではありません。
何も言わずただそばにいてくれる。
それだけで安心できたり、心地よさを感じられることがあります。
あなたが心地よさを感じるのはどんなときですか?
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