Yくんは、こだわりと過敏さのある特性の強いお子さんのお話です。
僕がリーダーを務めるグループで、臨床心理士さんがそのお子さんを担当していました。
プールの授業を拒否するYくん
小学校に入学して初めての夏。
プールの授業が始まりました。
Yくんは水着に着替えることを頑なに拒否して、プールに入ろうとしないというのです。
お母さんの話では、突然水が顔にかかることは嫌がることがあるが、「プールは決して嫌いではなく、入れない理由がわからない」とのこと。
担当心理士さんの話によると「自閉スペクトラム症の特性の強い子なので、初めてのことや馴染みのないことが苦手。見通しが持てないために入れないのではないか」との見立てでした。
ですが、お母さんに聞いてみても、事前に絵カード(視覚的な支援)を使って説明しているというのです。
お母さんはお子さんの特性をよく理解しており、いつも感心するくらい丁寧な対応をされていることを知っていたので、この心理士さんの見立てに対して「本当にそうなのかなぁ?」という疑問が拭えませんでした。
改めて考えてみた。
そこで、最近の彼の様子をもう一度思い出してみたのです。
そこで思い出したのが、前回の療育中になんの脈絡もなくつぶやいた「太った」という言葉でした。
ふと頭に「もしかしたら体型を気にしているのではないか?」という仮説が浮かんだのです。
プールが嫌なのではなく「人に裸を見せることに抵抗があるのではないか?」と思ったのです。
そこでお母さんに「もしかして最近自分の体型気にしてませんか?」と聞いてみました。
するとお母さんの反応が
「あっあー!!!! そう言えばつい昨日、鏡の前で自分のお腹をやたら眺めて、『僕太ってないよね?』って聞かれました!」
「きっとそれかもしれません。人前でお腹を見せることが恥ずかしいんじゃないでしょうか?」
「本人に聞いてみます」
と早速帰ってから本人に聞いてくれたのです。
そしたら「やはりそうだった」と。
ここからがこのお母さんの素晴らしいところで、早速彼とバスタオルで身体を隠しながら着替える方法を練習し、担任の先生にも連絡帳で、「水着に着替えようとしなかった理由」と「もし嫌がったら別室で着替えることを許可してもらいたい旨」を伝えたのです。
すると「先生もうまく促してくれ、水着に着替えてプールに入ることができた」とお母さんから連絡をいただきました。
一度入れてしまえば、それ以降気にしなくなり、プールの授業に参加できているということでした。
診断名ありきで考えない。
問題とされるような出来事が起こると、どうしても障害があるせいにされがちです。
でももっとシンプルに、障害ではなく、目の前のその子を見ることが大切です。
「自閉症のYくん」ではなく、「Yくんの中に自閉症という特性がある」というものの見方です。
診断は本人の理解を助けるものであって、本人を表すものではないのです。
ちょこっとつぶやき
「この子どんな子?」って聞かれたら、なんて答えますか?
すぐに答えられますか?
目の前にいるその子のことをよーくみてあげようね。
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