みんな敵だー!と暴れ出したRくんの話(自閉症スペクトラム・小5)

印象的なエピソード

小学校5年生の特別支援学級在籍のお子さんの外出支援に携わっていたときのエピソードです。

そのお子さんは、小4までは通常級に在籍しながら通級(現特別支援教室)を利用していました。

療育には小さい時から通っており、かなり厳しく「外からの刺激の統制で行動調整ができるようになること」を目指す療育施設に長年通っていました。

療育施設の中ではがんばって自分の行動をコントロールするのですが、日常生活の中では連日不安定。体力を持て余してしまい、家の中だけでは過ごすことができず、支援者と散歩に出かけることで発散を図っていました。

ある日の出来事

武智はその子を直接担当しているわけではありませんでしたが、担当者一人で外出することが難しかったため、サポートのために途中合流しました。その時には既に表情も硬く、不穏な空気が流れていました。

聴覚の過敏があり、赤ちゃんや犬の鳴き声に敏感に反応し、その音に耐えられず、突然走り出したり、大声を出して泣き出したりする行動のある子でした。

その日は道路を走っていた車の音に耐えられず、履いていた靴を脱ぎ、走っている車に向かって投げようとしたのです。武智の身体が反射的に反応し、それを止めに入った時のことです。

「みんな敵だー!!」

と叫んで大暴れになりました。彼の手が武智の顔にあたり武智がかけていたメガネが落ちました。彼はそれを拾い上げ、両手でぐしゃぐしゃに…。目は吊り上がり大きな声で叫びながら体を突き飛ばそうとしています。

側にあった人通りの少ない駐車場に移動し、やむなく彼を押さえました。彼の「みんな敵だー!」ということばが引っかかっていたので、彼の身体を押さえながら

「敵じゃない味方だー!!」

と叫んでいる自分がいました。

するとほんの数秒ほどで体中の力がスッと抜けていくのを感じました。30秒も経っていないと思います。呼吸も深くなり、表情も穏やかで、いつもの彼に変わっていました。

その日はタクシーを呼んで自宅に戻ったのですが、そこで彼が言った言葉が忘れられません。

家に帰ってすぐに自分の部屋に行くではなく、玄関先でずっと武智の顔を見ています。

そして

メガネ… 壊れちゃったね…。

小さな声で彼が語りかけてきました。
やってしまったことが相当ショックだったようです。

武智は

「止めてあげられなくてごめんな。メガネは気にしなくていいよ」

と声をかけたのですが、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

どれだけ孤独だったんだろう

このエピソードがあって以降、武智が一人で支援に入ることが何度かありました。

不思議なことに武智と一緒に活動する時だけは、一切パニックは起こさず、穏やかな表情で過ごして家に帰ることができました。一緒にお泊まりをした時にも、「はじめての場所では絶対に寝ない」とお母さんからは聞いていましたが、カチコチに固まっている背中をマッサージしてあげるとそのままスヤスヤと眠ってくれました。

彼はずっと一人で不安で、どうしようもない感情を自分でも処理することができず、とっても「孤独」だったのだと思います。

この出来事を通して武智との信頼関係・絆が一気に深まったのだと思いました。

この出来事はその後の自分が彼らとかかわっていくうえで、欠かせない体験・学びとなっています。

ちょこっとつぶやき

わかってもらえているという安心感があるから、自分の行動を調整しようとする力がその人の中から沸き起こってくるんだよね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました